▍ この記事の要点
  • 相場は年間売上×0.8〜0.9倍(EBITDAではなく売上ベースが実務の慣行)
  • 価格を上げる最大の要因は「顧問先の安定性・長期継続率」
  • 価格を下げる最大の要因は「顧問先に売上集中がある」「代表者依存が強い」こと
  • 売却の3〜5年前から「高く売るための準備」を始めることで、価格を1.2〜1.5倍に引き上げられる可能性がある

「自分の事務所はいくらで売れるのか」——後継者不在を感じ始めた多くの代表者が抱える疑問です。税理士事務所のM&Aは不動産と異なり、「時価」を示す公開市場がなく、相場観が掴みにくい分野です。この記事では、業界の実態に基づいて価格算定の仕組みと、高く売るための準備を整理します。

この記事の目次
  1. 価格相場と「売上×0.85倍」の根拠
  2. 価格を上げる5つの要因
  3. 価格を下げる5つの要因
  4. 具体的な算定ステップ
  5. 3〜5年前からできる「高く売る準備」
  6. よくある質問

価格相場と「売上×0.85倍」の根拠

税理士事務所のM&A価格は、日本の実務慣行として「年間売上の0.8〜0.9倍(平均0.85倍)」が相場として定着しています。なぜ売上ベースが使われるかというと、税理士事務所は業種の性質上、利益率のバラツキが大きく(代表者の役員報酬設定で利益が変動する)、EBITDA(利益)ベースの評価が安定しないためです。

年間売上相場(×0.8倍)相場(×0.9倍)
3,000万円2,400万円2,700万円
5,000万円4,000万円4,500万円
1億円8,000万円9,000万円
2億円1億6,000万円1億8,000万円

※ 上記はあくまで相場の目安です。実際の取引価格はデューデリジェンス(事前調査)の結果と買い手との交渉によって決定されます。

価格を上げる5つの要因

  1. 顧問先の継続年数が長い(平均5年以上):長期継続は「解約リスクが低い」ことを示し、買い手にとっての安心材料になります
  2. 顧問先の売上集中が少ない:上位3社で売上の50%未満が目安。1社依存が強いと、その顧問先が離れた瞬間に価値が急落するリスクがある
  3. 職員が複数おり、引継ぎ可能:代表者1人の事務所より、職員がいて「チームで機能している」事務所の方が評価される
  4. 専門領域を持ち競合優位性がある:「医療法人専門」「IT企業の税務」など、特定領域でのポジションがある事務所は買い手にとっての付加価値になる
  5. 財務内容が良好(EBITDA率が高い):同じ売上でもEBITDA率が高い事務所は、AIシフト・BPO活用の余地が少ないとして評価され価格が上がります

価格を下げる5つの要因

  1. 代表者依存が強い:顧問先の窓口が全て代表者1人で、職員が補助業務のみの場合、代表者が抜けた後のリスクが高く評価が下がる
  2. 顧問先の高齢化・廃業リスク:顧問先が中小企業の高齢オーナー企業が多い場合、数年内に廃業・承継の可能性があり、見込み収入が不安定とみなされる
  3. 財務内容の不透明さ:帳簿・会計ソフトが整備されていない、個人事務所で私的経費との混入がある、などのケース
  4. 立地・アクセス条件が悪い:駅から遠い・駐車場なし等、職員採用に苦労する立地は評価が下がりやすい
  5. 特殊な業務・属人的ノウハウ:代表者固有の人脈や業界コネクションに強く依存した収入は、引継ぎが困難として評価に反映される

具体的な算定ステップ

自事務所の概算価格を把握したい場合、以下のステップで試算できます。

  1. 直近3年の年間売上を確認:3年平均値を使う(単年の波が除去できる)
  2. 基本価格を算出:平均売上 × 0.85 = 基本価格
  3. 加算・減算要素を確認:上記の「価格を上げる要因」「下げる要因」を自事務所に当てはめ、+5〜10%または-5〜20%の調整幅を考える
  4. 概算レンジを把握:基本価格 ±10〜20% のレンジが「現実的な取引レンジ」

3〜5年前からできる「高く売る準備」

売却を検討している場合、今すぐ始めると価格に大きく影響する準備があります。

  • 顧問先台帳の整備:顧問先ごとの継続年数・売上・担当者を一覧化する。デューデリジェンス(買い手による調査)でこの資料が整っているかどうかが評価に直結する
  • 代表者依存の分散:職員への業務移管を進め、「代表者がいなくても回る」体制を作る
  • 財務の透明化:私的支出と事業支出を明確に分離する。クラウド会計への移行もこの文脈で有効
  • 顧問先の契約書整備:口頭のみの契約関係を書面化する(売却時に「契約の証明」が必要になる)

▍ 承継ラボで詳しく読む

売却の選択肢比較・仲介会社の選び方・承継後の職員対応については 承継ラボ で詳しく解説しています。

よくある質問

Q. 税理士事務所のM&A売却価格の相場は?

業界の一般的な相場は年間売上の0.8〜0.9倍(80〜90%)程度です。顧問先の安定性・職員の引継ぎ可能性・立地・専門領域などによって上下します。売上5,000万円の事務所なら4,000〜4,500万円が目安です。

Q. 税理士事務所の価格を上げるために何をすればいいですか?

主な要因は①顧問先の継続年数が長い(5年以上が理想)②顧問先に売上集中がない(上位3社で売上の50%未満)③職員が複数おり引継ぎ可能④財務内容が良好(EBITDA率が高い)⑤専門領域を持ち競合優位性がある、の5点です。特に①と②が最も評価に影響します。